受験期は、生活リズムの変化や定期的なテストのプレッシャーがストレスとなって、皮ふがかゆくなることがあります。
かゆみのメカニズムや皮ふの病気、今からできるかゆみ対策について皮ふ科医の馬場直子先生に聞きました。
【 かゆみを伴う皮ふ疾患に悩む受験生の母親へのアンケート(n=310)】
「かゆみによってお子様の勉学へ支障がある」と感じている母親137人の約88%が「集中力・判断力の低下」、64%が「イライラする」をかゆみによる勉強への支障として答えています。また同じ母親の31%が「かゆみによって、お子さんの成績が下がった」と思ったことがあると答えています。
かゆみが受験勉強に及ぼす影響の大きさがうかがえます。
かゆみのメカニズム
かゆみは、異常を知らせる防御反応
かゆみは、「皮ふをかきたくなるような感覚」と定義されます。皮ふに異物が付いていたり、内臓の病気があると、「かゆみ」でからだの異常を知らせます。かゆみは、私たちのからだに備わった防御反応のひとつなのです。
かくと気持ちよくなる
かゆい時にかくと気持ちがよくなり、かくことで一時的に不快な感覚が治まります。一方で、かかずに我慢するのはとてもつらいため、ついついかきすぎてしまうという経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
かゆみの悪循環
かゆい時に、かきこわすと皮ふの表面が傷つき、バリア機能が低下します。すると、皮ふ表面から異物が入りやすくなり、皮ふ内部の炎症がおこります。この炎症によって、さらにかゆみが強まります。アトピー性皮ふ炎などの慢性的に強いかゆみがある場合は、かくことを繰り返すことで、かゆみの悪循環( アトピー性皮ふ炎の場合 )がおきやすくなります。
かくのを我慢するのはつらいばかりでなく、物事に集中できないことや「かかないこと」自体がストレスとなり、さらにかゆみを強めたりします。
かゆみの悪循環を断ち切るにはどうしたらいいの?
近年、アトピー性皮ふ炎やじんましんなどのかゆみを伴う皮ふ疾患の研究が進み、皮ふのかゆみや炎症には「炎症性サイトカイン」という物質が深く関わっていることが明らかになってきました。
サイトカインに対してピンポイントに作用する分子標的薬が開発され、治療の幅が広がっています。現在、塗り薬のほかに、飲み薬や注射、光線療法などさまざまな治療法があります。 ※疾患によって使用できる薬剤は異なります。
かゆみについて併せて読みたい記事はこちらから
かゆみを伴う主な皮ふの病気
アトピー性皮ふ炎
良くなったり悪くなったりを繰り返すかゆみを伴う湿疹を主な症状とする病気です。皮ふの内部で炎症がおこっていて、皮ふが本来もっているバリア機能を低下させ、かゆみを引きおこします。年齢とともに湿疹の出やすい部位が変わっていきます。ストレスや思春期で症状が現れたり、再発・重症化することもありますので、かゆみが続く時には要注意です。
湿疹は体の左右対称に現れることが多い。
症状が出やすい部位:顔、首、頭、ひじ、ひざ、おなかや胸から背中にかけてなど
一般社団法人日本アレルギー学会/公益社団法人日本皮膚科学会/アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021.アレルギー. 2021 70(10) 1257-1342を参考に作成
じんましん
皮ふの一部に赤みを帯びたふくらみが現れ、しばらくすると消えてしまいます。かゆみやチクチクした痛みを伴います。食べ物や薬品など原因が特定される場合がありますが、じんましんの多くは原因がわかっていません。疲労やストレスで悪化することがあります。こうしたじんましんは繰り返しおこることが多く、6週間以上持続する場合は慢性じんましんと呼ばれます。
かぶれ(接触性皮ふ炎)
外部からの刺激物質やアレルギー源となる物質が皮ふに接触することで、皮ふに炎症がおこります。赤くなったり、ぶつぶつが出たり、かゆくなったりします。
時計の金属ベルトが原因で手首がかぶれるアレルギー性接触皮ふ炎や、冬の乾燥した時期になめ癖によって口の周りの肌が荒れたり、汗の成分が皮ふを刺激して皮ふ炎をおこす汗かぶれなどの刺激性接触皮ふ炎があります。
あせも
汗の出口がふさがれ、汗の成分が皮ふの外に出なくなり、皮ふに小さな赤いブツブツができます。強いかゆみを伴います。長時間、椅子に座って勉強していたり、冬に暖房の効いた部屋で厚着で過ごすとあせもができることがあるのでご注意を。
アトピー性⽪膚炎の治療について併せて読みたい記事はこちらから
受験本番にむけて今からはじめるかゆみ対策
受験シーズンに困らないように今からかゆみ対策をはじめましょう。
-
保湿
●保湿剤は皮ふにすり込むのではなく、薄く伸ばすように塗る。
●入浴後はすみやかに保湿剤を塗る。
-
正しい入浴習慣
●ナイロンタオルでゴシゴシ洗いは禁物。石けんをよく泡立て、手で優しく洗う。
●お湯は38~40℃くらいに設定し、つかるのは10分程度まで。
●入浴後はすみやかに保湿剤を塗る。
-
刺激が少ない服選び
●肌に触れる下着は綿素材、縫い目やタグ、ゴムなどで刺激しない服を選ぶ。
●受験当日の服装選びは着心地重視で。
-
室内環境
●夏はエアコンによる乾燥に注意。
●冬は乾燥防止に加湿器の併用が効果的。
-
規則正しい生活
●栄養が偏らない食事と十分な睡眠を心掛ける。
-
応急処置
●かゆみが強くて我慢できない時は、保冷材などで冷やすと楽になる。
●虫刺されなど原因がはっきりしている時は、薬剤師に相談のうえ、市販薬を使う。
日常生活での気をつけるポイントを押さえて、かゆみによる受験の不安をできるだけ軽減しましょう。
患者さんによるアトピー性皮膚炎との向き合い方もご紹介しています。
馬場 直子先生から皆さんへ
馬場 直子先生から皆さんへ
かゆみがあると誰でもかきたくなります。一過性であれば大きな問題ではありませんが、生活に支障をきたすかゆみには要注意。かゆみを伴う皮ふの病気が原因かもしれません。
かゆみの原因がわからない
我慢できないほどの強いかゆみがある
かゆみが長く続いてだんだんひどくなってきた
かゆくて眠れない日がある
気になる「かゆみ」がある時には自己判断せずに皮ふ科医にご相談することをお勧めします。