& magazine Vol.6

アトピー性皮膚炎患者さんがスポーツを楽しむときの注意点

アトピー性皮膚炎の治療はこの数年の間に大きく前進し、良い状態を長くキープできる患者さんも増えてきました。一方で、スポーツをした後や運動後、アトピー性皮膚炎が悪くなってしまい悩んでしまうことはありませんか?良い状態をキープしながらスポーツや運動を楽しむためのコツにはどのようなものがあるのでしょうか。あたご皮フ科 副院長 江藤隆史先生にお伺いしました。

江藤 隆史 先生

江藤 隆史 先生

あたご皮フ科 副院長
1977年、東京大学工学部計数工学科卒業。1984年、東京大学医学部卒業。1984年、東京大学皮膚科助手。1989年、ハーバード大学病理学教室研究員。1992年、東京大学皮膚科講師・病棟医長。1994年、東京逓信病院皮膚科医長。1998年、東京逓信病院皮膚科部長。2015年、東京逓信病院副院長。2015年より現職。

アトピー性皮膚炎治療の目標

アトピー性皮膚炎治療の最終目標は、症状がないか、あっても軽微で、日常生活への支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、それを維持することです。治療によりかゆみや見た目の状態が良くなることは通過点で、そのような良い状態を長くキープすることを目指していくのが大切です(図1)。

アトピー性皮膚炎の標準的な治療として重症度に関係なく最初に行われているのは、ステロイド外用薬をはじめとする塗り薬を用いた外用療法です。これまで、外用療法で良くならず、アトピー 性皮膚炎治療に希望が持てなかった方も多かったのですが、ここ数年で新しい治療選択肢も増えてきて、ほとんどの患者さんがアトピー性皮膚炎にさほど悩まされなくて済む時代を迎えつつあります。

アトピー性皮膚炎の治療で重要となるのが、アトピー性皮膚炎は悪化や再発を繰り返す特徴をもっているということです。皆さんも、季節やライフスタイルの変化により症状が悪化することを経験されたことがありますよね?その背景には、見た目には症状はないが、潜在的に炎症が残っている状態があると考えられます。実際に外来で診察してみると、見た目に症状がなくても、皮膚を触ってみるとゴワゴワした感じが残っていることがあります。「見た目が良くなったので治療はもうやめたい」と思う方もいるかもしれませんが、症状が改善した後も継続して治療をすることで、悪化や再発が起こりにくいツルツルのお肌を目指すことができます。高血圧の患者さんが降圧薬を服用して血圧が下がってきたところで、すぐに治療をやめてしまうとまた血圧が上昇してしまうのと同じことで、良い状態をキープするためには炎症が落ち羞くまで継続治療が大事なのです。

図1 :アトピー性皮膚炎において良い状態をキープするイメージ

運動やスポーツに対しての考え方

アトピー性皮膚炎患者さんを対象としたアンケート調査では、重症度が高くなるにつれて「汗をかくスポーツができない」 「温泉やプールに行けない」と考える方が多いことが示されています(図2)。しかし適切な治療を行っていれば、スポーツや運動に関して特に制限をする必要はないと思っています。例えば「アトピー性皮膚炎のお子さんが部活動で日に焼けて汗をたくさんかくので、部活動をやめさせたほうがいいか」というような考えも不要です。多くの医師は、アトピー性皮膚炎の治療と患者さんの活動の継続を両立するためのサポーターとなってくれるはずです。

図2:アトピー性皮膚炎患者300名を対象としたアンケート調査結果直近1年間に起こった
疾病負荷についての回答結果からスポーツに関連する項目を抜粋

中原剛士ほか.日皮会誌 2018; 128: 2843-2855より引用、改変
©日本皮膚科学会 2018
本調査はサノフィ株式会社の資金提供により実施された。

汗に対する考え方とシャワー浴のポイント

汗に関する別の調査では、「汗はアトピー性皮膚炎の増悪因子と思いますか?」という質問に対して8割以上の方が「はい」と回答しました(図3)。汗を放置することでそれなりの刺激になる場合もあるので、適度にシャワーを浴びることも大事ですが、多くの場合は汗を吸水する肌着を着て、汗を多めにかいたらぬれタオルで拭き取る程度でも十分です。実際に汗で悪化するアトピー性皮膚炎患者さんは、極めてわずかです。また、一部には汗をあまりかけない状態の方もいて、汗をかけないことが症状の悪化に関係することもあります。このような方の場合には、むしろ汗をかける状態にすることが治療目標の一つになります。
汗に関連して注意しておきたいのは、特にティーンエージャーで汗をかくシーズンに、胸や背中、腕などにニキビのような皮膚症状が多発するマラセチア毛包炎を起こしやすい体質の方もいるので、汗をかいて数時間単位で放置することはあまり良くないと思います。
シャワーに関してですが、私は「日中に汗をかいたら拭き取るなどしていれば、朝と夜の2回、あるいは夜1回でもいいですよ」と患者さんに話しています。アトピーだから、と特別なことはしなくていいですよ。洗浄する際は、皮膚のバリアを壊さないように優しくせつけんなどを泡立てて、こすらずに洗い流すことが大事です。

図3:アトピー性皮膚炎患者66人を対象としたアンケート

室田浩之.日皮会誌 2014; 124: 1289-1293より引用、改変
©日本皮膚科学会 2014

効果的な紫外線対策

アトピー性皮膚炎に対する治療に紫外線療法がある通り、紫外線はうまく使えば効果的です。そのため、紫外線を極度に避ける必要はありません。ただ、紫外線に過剰に当たった場合にはアトピー性皮膚炎の悪化につながることもありますし、長期的には皮膚がんやシミ ・シワなどの原因の一つになるので、紫外線に多く当たることが予想される場合にはサンスクリーンをうまく活用することをお勧めします。サンスクリーンには様々なものがありますが、紫外線防止効果が高いものを一度塗っておけば安心ということではなく、汗で流れ落ちてしまったらこまめに塗り直すことで効果的に紫外線対策をすることができます。

プール後のケアについて

プールの水は塩素消毒されていますが、それほど毒性が高いものではありません。プールに入った後は、誰でも軽くシャワーを浴びます。普通の人と同じように、皮膚の表面に塩素を残さないようにシャワーで流すことは必要ですが、シャワー浴の際にせつけんを付けてゴシゴシ洗い過ぎるほうがよっぼど悪影響を与えるでしょう。プール ・シャワー浴の後は体についた水分を拭き取りますが、ゴシゴシこすると皮膚のバリアを壊してしまうので、タオルを押し当てて吸い取るような拭き方をお勧めしたいです。
プールに長時間入って、その後でシャワー浴をすることで、皮膚から保湿成分が流れ出てしまうため、プールおよびシャワー後の保湿はとても大事です。すぐに保湿剤を塗れなくても帰宅後に塗っていただければ保湿効果は得られると思います。

アトピー性皮膚炎の治療がうまくいって良い状態をキープできていれば、
必要以上に汗のことを気にしたり、紫外線に気をつかわずに生活を送ることができます。 日常生活への支障がない状態にすることを最終目標として、これからもアトピー性皮膚炎治療に一緒に取り組んでいきましょう。

×子どもの
アトピー性皮膚炎