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アトピー性皮膚炎と併存疾患、そして疾病負荷

アトピー性皮膚炎は気管支喘息やアレルギー性鼻炎、食物アレルギーなどと併存することがあり、それらの併存疾患はアトピー性皮膚炎の症状をさらに悪化させます。 また、併存疾患による負荷は直接的にあらわれる症状だけでなく、日常生活や患者の精神面にも影響を及ぼすことがあります。
患者のQOL(Quality of life:生活の質)を著しく低下させるアトピー性皮膚炎の併存疾患と、その疾病負荷について解説します。

江藤 隆史 先生

江藤 隆史 先生

あたご皮フ科 副院長
1977年、東京大学工学部計数工学科卒業。1984年、東京大学医学部卒業。1984年、東京大学皮膚科助手。1989年、ハーバード大学病理学教室研究員。1992年、東京大学皮膚科講師・病棟医長。1994年、東京逓信病院皮膚科医長。1998年、東京逓信病院皮膚科部長。2015年、東京逓信病院副院長。2015年より現職。

アレルギー疾患におけるアトピー性皮膚炎の位置づけ

アレルギー体質の人が子供から大人へ成長するにしたがって、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎(花粉症を含む)、食物アレルギーなどさまざまなアレルギー疾患を発症することをアレルギーマーチと呼びます。アレルギーマーチの中でもアトピー性皮膚炎は大きな柱であり、気管支喘息やアレルギー性鼻炎などと交互に症状が出たり、同時に出たりを繰り返します。アレルギーマーチを語るうえでアトピー性皮膚炎の存在は特に重要なのです。
その理由は、アトピー性皮膚炎の皮膚のバリア機能は低下しており、その皮膚バリアの隙間からアレルゲン(アレルギーを起こす物質)が侵入し、それによって他のアレルギー疾患の発症や重症化を招くことがわかってきたからです。
例えば小麦成分が入った石鹸を常用したことで気付かないうちに小麦アレルギーになり、本人は小麦アレルギーという自覚がないままに小麦を食べ、激しい発作を起こしたという例が報告されました。このようなことがきっかけで、アトピー性皮膚炎と併存疾患の関係が注目されるようになりました。

日常生活におけるアトピー性皮膚炎の疾病負荷

アトピー性皮膚炎の疾病負荷がもたらす、日常生活や精神面への影響について年代別に考えてみたいと思います。
小児期では、かゆみによる睡眠障害や外遊びの制限、また、いら立ちや友達との関係への不安などを訴える患者さんが多くみられます。学生にとってかゆみによる集中力・判断力の低下とそれに伴う学習能率の低下は大きな問題です。
青年期は思春期と重なるため、精神面の問題も含めてやや複雑です。湿疹による容姿の悩み、それに伴う引きこもり、恋愛問題で悩むケース、また、漠然と死にたいという希死念慮がみられることもあります。 成人期は身だしなみについて、女性なら化粧、男性ならひげそりによる症状悪化が多くみられます。また、周囲とうまく付き合えないといった人、さらに結婚をしたくてもできないと結婚をあきらめてしまう人もいます。アトピー性皮膚炎が与える疾病負荷の大きさを感じます。
社会に目を向ければ、アトピー性皮膚炎患者の就業機会の消失や失職など、労働生産性の低下、活動性の低下といった経済的な損失も見逃せません。

アトピー性皮膚炎と併存疾患における疾病負荷

アトピー性皮膚炎と併存する主な疾患は気管支喘息、アレルギー性鼻炎、食物アレルギーなどがあります。花粉症が併存すると鼻水や涙など常に水分が分泌されるため、アトピー性皮膚炎の顔面病変の悪化や花粉症皮膚炎が出るケースもみられます。また、気管支喘息との併存であれば急激な喘息発作を引き起こすこともあり、最悪の場合は死に至ることもあります。
アトピー性皮膚炎は、ただでさえ疾病負荷の大きな疾患です。そのうえ併存疾患があれば、その負担は本当に大きなものだと思います。アトピー性皮膚炎の症状を改善し、アレルギー併存疾患の発症を予防するためには、かゆみ、皮膚の奥にある炎症、そして皮膚のバリア機能を改善する治療がとても大切です。
アトピー性皮膚炎の治療は日々進歩しています。もし今負担に感じていることがあれば、まずは医師に話してみる、その一歩から踏み出して欲しいと思います。

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