
江藤 隆史 先生
あたご皮フ科 副院長
1977年、東京大学工学部計数工学科卒業。1984年、東京大学医学部卒業。1984年、東京大学皮膚科助手。1989年、ハーバード大学病理学教室研究員。1992年、東京大学皮膚科講師・病棟医長。1994年、東京逓信病院皮膚科医長。1998年、東京逓信病院皮膚科部長。2015年、東京逓信病院副院長。2015年より現職。
セルフコントロールの意識を持つことから
〝発疹がひどくなった→病院へ行く→薬をもらう→自分で薬を塗る”という『症状の悪化』が治療サイクルの始まりになっている患者さんが、実際にはほとんどではないでしょうか。しかし、アトピー性皮膚炎は慢性の疾患であり、良い状態を保ちながら、長く付き合っていくためには、このサイクルを早く断ち切る必要があります。その鍵となるのが、いかにセルフコントロールできるようになるかです。悪くなってしまうと、良くするのには時間がかかり、「また、悪くなった…」と気持ちの面でも負担がかかります。そのため、良い状態を維持していくために、毎日の生活の中で自分の肌の状態を感じながらケアしていくという意識を持つことがとても重要なのです。例えば、「花粉症の時期にはアトピー性皮膚炎が悪化しやすいから、その前に病院へ行ってきちんと薬をもらっておこう」という行動ができることも、セルフコントロールができていることの一つとしてあげられます。
自分のペースで生活できるから、病気とポジティブに向き合える
セルフコントロールを身につけることは、アトピー性皮膚炎という病気に振り回されずに、自分のペースで病気と付き合っていけるようになるという大きなメリットがあると思います。そうすれば、気持ちに余裕が生まれ、「いつ症状が悪くなるか?」というネガティブな思考から、「もっと良くなりたい」というポジティブな思考へと、向き合い方も変わってくると思います。忙しい中で、病院へ通い続けることは面倒かもしれませんが、肌を診てもらい、薬をもらうだけの時間にするのではなく、ぜひ、セルフコントロールのための知識をつける時間だと考えて、医師や看護師と色々な話をして欲しいと思います。
正しいケアを身につけることが第一歩
セルフコントロールというのは、決して自分でいいように薬を塗る量を調整することではないことをまず理解していただきたいです。肌の調子がいいから、自己判断で薬の量を減らすのはセルフコントロールとは言えません。まずは、病院できちんと、薬をどの程度(量)、どの部分(範囲)に、どんな風に塗るのか正しい方法を習得する必要があります。診療時間内で理解できないところは、そのままにせず看護師さんや薬剤師さんなどの医療スタッフに聞くのも良いアイデアだと思います。「仕事で忙しい」、「肌の調子もいいし、塗らなくてもいいかな」、こういう忙しさや面倒くささなどの気持ちに流されずに、薬を塗ることの大切さを理解して、治療を継続できることもセルフコントロールだと思います。
看護師もアトピー性皮膚炎治療の一員です。
先生に伝えづらいことがあれば看護師に相談してみましょう。
看護師さんにはどんなことを相談すればいいの?
〝薬をどのように、どのくらいの量を塗るのか”、しっかり分かるまで確認しましょう。
薬は病院で決められた量を、正しい方法で塗ることで効果が期待できます。しかし、どうしても、「薬を塗る量は少なくしたい」という患者さんの気持ちがあるため、必要な量よりも少なくなりがちです。そのため、看護師さんに目の前でどのぐらいの量を、どのようにして塗るのか、具体的に説明してもらいましょう。
目で見ると、思っていたよりも薬の量が多くて驚くかもしれませんが、良くなっていくと、薬の量は減ってくるので、まずはしっかりと決められた治療をやってみましょう。

「先生に言われたように毎日、薬を塗るのは大変…」、と思っているときは、その気持ちも正直に看護師に伝えてみましょう。そうすると、「夜だけやってみましょう」、「腕がひどいので、まずは腕をしっかりやりましょう」と現実的にできる方法を、話あうことができます。さらに、「ソファの近くに薬を置いて、夜、テレビを見ている時間に、薬を塗るようにしてみましょう」など、具体的に生活の中で続けていける方法についてアドバイスを受けることもできます。

自宅でケアする時の様々な悩みを、相談してみましょう。
アトピー性皮膚炎の治療は、患者さん自身が毎日のケアをしっかりとできることが重要です。セルフケアについて、看護師さんに具体的に悩んでいることを相談してみましょう。例えば、「薬を塗った後にベタついて嫌だ」という場合は、1枚汚れてもいい肌着を着ることを提案したり、「一人暮らしだから背中が塗れない」という患者さんには、背中はクリニックで塗っていくようにサポートしています。セルフケアは、患者さん自身が行うものなので、患者さんの負担が少なく、“やってみよう”、“続けていこう”と思えることが大切です。一人ではなかなかそういう気持ちになれないかもしれませんが、そんな時こそ、ぜひ、看護師のアドバイスを受けて欲しいのです。色々な患者さんと日頃から接しているので、セルフケアを続けていくためのアイデアもたくさん知っていると思います。

あたご皮フ科 看護師 大野泰子さん、 伊東奈美さん
アトピー性皮膚炎の症状が良くなってくると、患者さんの表情も柔らかく、優しい印象になってきます。
医師だけでなく、看護師や薬剤師などのサポートを受けながら、一人でも多くの患者さんに、“アトピー性皮膚炎は良くなる”ことを自分自身の手で体験していただきたいです。

こちらのインタビューは「& magazine」Vol.3に掲載しております。
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Vol.3
(5.2MB)