あなたは、たびたび症状や発作が起こる状態が当たり前と思っていませんか?喘息治療の目標は、「健康な人と変わらない生活を送る」ことです。
喘息の治療は進化しています。これまでの治療ではコントロールしにくかった喘息でも、うまく症状をコントロールすることが可能になってきています。
ここでは喘息の新しい選択肢、生物学的製剤について解説します。あきらめずにあなたに合った治療を行うことで、うまく症状(発作)をコントロールし、健康な人と変わらない生活を目指しましょう。
喘息治療の進歩により、生物学的製剤が使えるようになりました
喘息の治療では、吸入ステロイド薬が基本の薬となっています。さらに必要に応じて、気管支を広げる薬を併用することもあります。しかしこれらの薬を最大限使っても効果が不十分な場合もあります。喘息治療の進歩により、こうした場合には生物学的製剤とよばれる薬が使えるようになりました。これまでの治療が十分に効かなかった喘息に対して効果が期待できる薬です。
生物学的製剤は、バイオテクノロジーを駆使して作られた医薬品です
喘息で使われる生物学的製剤の成分は、「抗体」とよばれるタンパク質の一種でできています。「抗体」は非常にデリケートなため、これまでの吸入薬や飲み薬のように、人工的に作ることができません。しかし、バイオテクノロジーの進歩によって、生きている細胞に「抗体」をたくさん作らせる技術が確立されました。そのおかげで、現在ではさまざまな生物学的製剤が医薬品として使えるようになっています。
生物学的製剤の成分である「抗体」は、特定の体内物質や、その受容体※と結合できるようになっています。結合できる体内物質や受容体の違いで区別するために、一般的に「抗○○抗体」(○○は体内物質または受容体の名前)とよばれています。
※ 細胞の表面に存在し、特定の体内物質と結合することによりその細胞を活性化させるタンパク質
生物学的製剤は、気道炎症にかかわる物質の働きを止めることで効果を発揮します
喘息の気道炎症には、主に2型炎症が関わっていますが、近年、ILC2が活発に働いている2型炎症では、吸入ステロイド薬が効きにくいことが分かってきました。しかし活発に働いているILC2からインターロイキン(IL)やIgEの放出が続いている場合でも、その働きを止めることができれば、気道炎症の改善が期待できます。
喘息治療では、インターロイキン-4(IL-4)とIL-13の受容体、IL-5、IL-5の受容体、IgEの働きを抑える生物学的製剤が使われます。それぞれ抗IL-4/13
抗体、抗IL-5 抗体、抗IL-5受容体抗体、抗IgE 抗体という名前でよばれています。
喘息治療で使うことができる生物学的製剤
(抗〇〇抗体)
名前 | 作用 |
---|---|
抗IL-4/13受 容体抗体 |
IL-4とIL-13の受容体の働きを止める |
抗IL-5抗体 | IL-5の働きを止める |
抗IL-5受容体 抗体 |
IL-5の受容体の働きを止める |
抗IgE抗体 | IgEの働きを止める |
既存の喘息治療薬に生物学的製剤を追加することで、さらなる喘息のコントロールが期待できます。
治療ステップと生物学的製剤
喘息の治療は、その強度によって4段階の治療ステップに分けられており、それぞれの治療ステップでは吸入ステロイド薬をはじめとしてさまざまな薬を選択できます。治療ステップが1 から4に進むほど治療の強度が高くなります。治療ステップの決定は、患者さんの現在の喘息の状態と、これまでの治療の内容を考慮して行われます。それぞれの治療ステップで選択できる薬の種類は、以前に比べて多くなりました。
治療ステッ プ1 |
治療ステッ プ2 |
治療ステッ プ3 |
治療ステッ プ4 |
||
---|---|---|---|---|---|
ICS(低用量) | ICS(低〜中 用量) |
ICS(中〜高 用量) |
ICS(高用量) | ||
長 期 管 理 薬 |
基 本 治 療 |
上記が使用できない場合、以下のいずれかを用いる LTRA テオフィリン徐放製剤 ※症状が稀なら必要なし |
上記で不十分な場合に以下のいずれか1剤を併用 LABA (配合剤使用可) LAMA LTRA テオフィリン徐放製剤 |
上記に下記のいずれか1剤、あるいは複数を併用 LABA (配合剤使用可) LAMA LTRA テオフィリン徐放製剤抗IL-4Rα 抗体 |
上記に下記の複数を併用 LABA (配合剤使用可) LAMA LTRA テオフィリン徐放製剤 抗IL-4Rα 抗体 抗IgE 抗体 抗IL-5 抗体 抗IL-5Rα 抗体 経口ステロイド薬 気管支熱形成術 |
追加 治療 |
LTRA 以外の抗アレルギー薬 | ||||
発作治療※ | SABA | SABA | SABA | SABA |
※発作治療は、軽度の発作までの対応を示しています。
ICS:吸入ステロイド薬 LABA:長時間作用性β2刺激薬
LAMA:長時間作用性抗コリン薬 LTRA:ロイコトリエン受容体拮抗薬 SABA:短時間作用性β2刺激薬
日本アレルギー学会:アレルギー総合ガイドライン 2019, 協和企画,2019, p.72
あなたの喘息は、コントロールできていますか?
喘息コントロール状態は、コントロール良好、不十分、不良の3段階に分類されます。週に1回以上発作があり、発作治療薬を使っている場合は、コントロールが不十分、または不良と考えられます。
このような場合、生物学的製剤を含む他の治療を検討した方が良いかもしれません。
コントロール不十分または不良かもしれないと感じた場合は、医師に相談してみましょう。
コントロール良好 (すべての項目が該当) |
コントロール不十分 (いずれかの項目が該当) |
コントロール不良 | |
---|---|---|---|
喘息症状 (日中及び夜間) |
なし | 週1回以上 | コントロー ル 不十分の項 目が 3つ以上 当てはまる |
発作治療薬の使用 | なし | 週1回以上 | |
連動を含む 活動制限 |
なし | あり | |
呼吸機能 (FEV1および PEF) |
予測値あるいは 自己最良値の 80%以上 |
予測値あるいは 自己最良値の 80%未満 |
|
PEFの日 (週)内変動 |
20%未満 ※1 | 20%以上 | |
増悪 (予定外受診、緊急 受診、入院) |
なし | 年に1回以上 | 月に1回以 上 ※2 |
※1:1日2回測定による日内変動の正常上限は8%である。
※2:増悪が月に1回以上あれば他の項目が該当しなくてもコントロール不良日と評価する。
日本アレルギー学会:喘息予防・管理ガイドライン 2018, 協和企画,2018, p.100
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