かゆみを伴う皮膚疾患でお悩みの方へ

かゆみを伴う代表的な皮膚疾患には、痒疹、接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、皮膚搔痒症などがあります。それぞれの症状や皮膚の状態、原因、検査・診断や治療について正しい知識を身につけ治療に取り組みましょう。

  • かゆみは生活の質(QOL)
    を低下させる
  • かゆみの
    メカニズム

かゆみは生活の質(QOL)を低下させる

かゆみは、経験すればわかる通り、とてもつらい感覚のひとつです。睡眠が妨げられたり、かくのをがまんすることがストレスになったりと、患者さんの生活の質(QOL)や、日常生活に必要な集中力・判断力・作業能率にも大きく影響します。
かゆみを伴う皮膚疾患に悩む方の労働生産性を調査したデータによると、皮膚のかゆみによって労働生産性が約40%低下すると報告されています。皮膚のかゆみがいかに患者さんのパフォーマンスに影響しているかがわかります。

皮膚のかゆみによる労働、勉学、日常生活の障害率

かゆみは、どのように生活に影響を及ぼすのでしょうか?
仕事で多忙を極めるビジネスマン、学校や予備校で勉学にはげむ受験生、毎日車を運転する職業ドライバーの方だけではなく、子育てや家事を行う主婦の方や、高齢者など、すべての方に大きな影響を及ぼします。

かゆみによる仕事への影響

かゆみが仕事に影響を及ぼす調査で、かゆみを伴うアレルギー性皮膚疾患に悩むビジネスマン1,032人を対象にアンケート調査が実施されました。

かゆみを伴うアレルギー性皮膚疾患に悩むビジネスマンを対象としたアンケート調査結果

アトピー性皮膚炎症状が重いとき、軽いとき、および正常な皮膚の表面と内部の断面図

調査したビジネスマンの約半数が「アレルギー性皮膚疾患により仕事に支障がある」と回答し、そのうち、支障をもたらすものとして「かゆみ」と回答した人が90%以上を占めました。皮膚疾患によるかゆみは、仕事へ大きな支障をきたすことが明らかになりました。

かゆみの飲み薬による仕事への影響

かゆみの対策として飲み薬を飲んでいる人の約60%が飲み薬の副作用による「眠気・だるさ」を感じており、「集中力・判断力の低下」を感じている人も25%以上いることが示されました。皮膚のかゆみがあるビジネスマンは、「かゆみ」によって仕事へ支障をきたすとともに、飲み薬の副作用によるパフォーマンス低下にも悩まされていることが明らかになりました。

アトピー性皮膚炎症状が重いとき、軽いとき、および正常な皮膚の表面と内部の断面図

かゆみのメカニズム

かくと、ますますかゆくなる

皮膚の病気や虫刺されなどで肌がかゆくなったとき、皮膚をかけばかくほどかゆみが強くなってしまう経験がありませんか? このメカニズムは医学的に「Itch-scratch cycle(かゆみ-搔破サイクル)」といいます7,8)
皮膚の病気で慢性的に強い痒みがある場合、繰り返してかくことで皮膚バリア機能が破綻し、皮膚の炎症が悪化して、かゆみがさらに増すこともあります7,8)

アレルギー性のかゆみに関与する2型炎症と2型サイトカイン

アレルギー性のかゆみには主に2型炎症、および2型炎症を起こす2型サイトカインが関与しています(サイトカインは、人体の中ではたらくタンパク質のこと)。
そもそも2型炎症は、免疫細胞が寄生虫などから体を守るための免疫システムです6)。同システムがはたらくと免疫細胞から2型サイトカイン〔インターロイキン(IL)-4、IL-5、IL-13、IL-31など〕が産生されます6)。ただ、アレルゲンなどに対してこれらの2型サイトカインがはたらくとアレルギーを引き起こし、かゆみが出てきてしまうこともあります6,9)

かゆみを伴う代表的な皮膚疾患には以下のものが知られています。

アトピー性皮膚炎

良くなったり悪くなったりを繰り返すかゆみを伴う湿疹を主な症状とする疾患です。

痒疹

かゆみを伴う、孤立した小さなブツブツを特徴とする反応性の皮膚疾患1)です。

蕁麻疹

皮膚にかゆみを伴う赤みを帯びたふくらみ(膨疹)があらわれ、しばらくすると消えてしまう皮膚疾患です。

接触皮膚炎

外来性の刺激物質や抗原が皮膚に接触することで発症する湿疹性の炎症反応3)です。

脂漏性皮膚炎

皮膚表面に油性で黄色調の、一部皮膚がはがれた部分を伴った境界が比較的明確な紅斑4)です。

かゆみは、何度も引っかいて炎症が悪化する皮膚の不快な感覚6)のことを言います。引っかく行為は、物理的に皮膚から異物を取り除いて常に同じ状態に保ち続けようとする反応です。
多くの場合、かゆみがあるところには炎症が生じています6)

1) 佐藤貴浩ほか: 日本皮膚科学会ガイドライン 痒疹診療ガイドライン2020, 日本皮膚科学会雑誌. 2020; 130(7): 1607-1626
2) 秀道広ほか: 日本皮膚科学会ガイドライン蕁麻疹診療ガイドライン2018, 日本皮膚科学会雑誌. 2018; 128(12): 2503-2624
3) 高山かおるほか: 日本皮膚科学会ガイドライン接触皮膚炎診療ガイドライン2020, 日本皮膚科学会雑誌. 2020; 130(4): 523-567
4) 清佳浩. Med Mycol J. 2012; 53(2):97-102
5) 佐藤貴浩ほか: 日本皮膚科学会ガイドライン皮膚瘙痒症診療ガイドライン2020, 日本皮膚科学会雑誌. 2020; 130(7): 1589-1606
6) 江川形平: アレルギー. 2020; 69(4): 256-259
7) Mack MR et al.: Trends Immunol. 2018; 39(12); 980-991
8) 国立医療研究開発機構:プレスリリース 長引くかゆみ、何回も引っ搔くと神経で増えるタンパク質が原因!―かゆみ治療薬開発への応用に期待―.
令和4(2022)年5月. https://www.amed.go.jp/news/release_20220509-01.html [2022年11月15日アクセス]
9) 森山彩野: 生化学. 2019; 91(5): 711-714